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「GLM-5.3」が相次ぐハッキングの原因? 公開日と事件の日付を並べて調べてみた【2026年10月】

公開 ・ 読了の目安 約19分 ・ Sorabun 編集部

「GLM-5.3」が相次ぐハッキングの原因? 公開日と事件の日付を並べて調べてみた【2026年10月】

相次ぐ情報漏えいの原因は、8月に公開されたAI「GLM-5.3」だ——。そんな投稿が、Xで広がっています。

本当でしょうか。私たちは、GLM-5.3が公開された日と、漏えいした会社が自分で発表した「侵入が始まった時期」を、一次情報で並べて確かめました。

先に結論を書きます。

1. 何が言われているのか

10月18日、Yahoo!ニュースに、不正アクセスの急増の背景に「中国製LLM」の台頭がある、という見出しの記事(テレビ高知)が載りました。記事の中に、GLM-5.3というモデルの名前は出てきません。

Yahoo!ニュースに載ったテレビ高知の記事の見出し。不正アクセス急増の背景に中国製LLMが台頭し、AIが自動で偵察から侵入、情報の奪取まで行う、と書かれている
Yahoo!ニュース(テレビ高知、2026年10月18日)の見出し

まとめサイトには「GLM-5.3の発表の直後に、世界中で不正アクセスが急増」という記事(10月7日)もあります。中身はXの投稿を集めたもので、数字の出どころは書かれていません。

世界の攻撃の量を毎月公表している Check Point の数字(1つの組織が1週間に受けた攻撃の数)は、7月が前の月より3%増、8月が4%増、9月が16%増でした。8月14日や8月下旬を境にした段差は見えません。同社も8月について「一時的な急増ではなく、続いている圧力」と書いていて、GLM-5.3とは結びつけていません。

2. GLM-5.3とは

GLM-5.3は、中国のZ.ai(旧社名Zhipu AI)が公開したAIです。

日付(2026年) できごと
8月14日 Z.aiがGLM-5.3を公開(同社のブログの日付)。中身(重み)は「2週間後」に公開すると告知
8月18日 APIで誰でも使えるようになる
8月26日 小型版の GLM-5.3-Flash の重みを公開(MITライセンス)
8月28日(日本時間29日0時ごろ) Z.aiの公式Xが「GLM-5.3 is now open-weight.」と投稿。誰でもダウンロードできるようになる
9月17日 米国の NIST CAISI が評価を公表
9月29日 Anthropic が評価の報告を公表
NIST CAISI の評価のページ。Z.ai が 2026年8月14日に GLM-5.3 を公開し、2週間後に重みを公開したこと、公開されたAIの中で最もサイバー能力が高いこと、米国の最先端より約4か月遅れていることが書かれている
NIST CAISI「CAISI's Assessment of Z.ai's GLM-5.3 Cyber Capabilities」(2026年9月17日)

米国の国立標準技術研究所(NIST)の CAISI は、GLM-5.3を「これまでに公開された中で、最もサイバー能力の高いオープンウェイトのモデル」と評価しました。同時に、米国の最先端のAIより、能力は約4か月遅れているとも書いています。開発元のZ.ai自身も、ブログで「学習を進めるうちに、サイバーの能力が思っていたより速く伸びた」と書いています。

Anthropicの評価:隔離した環境での実験

Anthropicは9月29日、GLM-5.3の評価の報告を出しました。

Anthropic の報告の箇条書き。だます指示で64%、考えの途中を書き足すと92%、断る仕組みを取り除いた版では100%、GLM-5.3 が依頼に応じたと書かれている
Anthropic「GLM-5.3 and the spread of advanced cyber capabilities」(2026年9月29日)

大事なのは、これが外とつながらない、隔離した環境での評価だということです。報告の結論は「国家とそれ以外の攻撃者が、GLM-5.3のようなモデルを使って、現実の被害を出す可能性が高い」という見通しで、実際の攻撃で使われたのを観測した、とは書いていません。日本の事件にも触れていません。

Anthropic の報告の「What does this mean?」の段落。GLM-5.3 のようなモデルを国家とそれ以外の攻撃者が使う可能性が高いと考える、と書かれている
Anthropic の報告(2026年9月29日)の「What does this mean?」の段落

なお、Anthropicは競合するAIを売っている会社です。ただ、能力の評価は、NIST CAISIの評価ともおおむね一致しています。

3. 日付を並べてみた

漏えいの公表が増え始めたのは、7月から

セキュリティ会社のマクニカほかが、Webシステムからの個人情報の漏えい(可能性を含む)の公表を、月ごとに数えています。

2026年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月(6日まで)
公表の件数 5 4 3 10 9 7 15 26 27 13
マクニカの「国内Web侵害の公表件数推移」の棒グラフ。2026年は6月の7件から7月に15件、8月26件、9月27件と増えている
マクニカ「相次ぐWEBシステムからの情報漏洩事案について」(2026年10月7日)の図1

6月の7件から、7月には15件と倍になっています。GLM-5.3の公開より前です。集計した人も「違和感を感じ始めたのもまさに7月頃でした」と書いています。しかも、これは公表した月で数えているので、侵入はそれより前に起きています。

各社が発表した、侵入の時期

漏えいした会社の発表から、侵入や悪用が始まった時期を拾いました。「8月14日より前か」は、GLM-5.3が使えるようになった日より前に始まっていたかどうかです。

会社 侵入・悪用の始まり 気づいた日 発表された原因 8月14日より前か
Eストアー(BASEの子会社) 5月21日(8月1日まで) 8月1日 アプリケーションの脆弱性 前
デジタル庁(業務システムGSS) 6月25日より前 6月25日 VPN機器の脆弱性(攻撃の前に公表されていたもの) 前
EPARK(リラク&エステ) 7月27日より前 7月27日 公表を控えている 前
skyticket(バス予約) 8月3日 10月1日 ログインなしで予約完了ページが見られた 前
Gyazo 9月11日 9月11日 画像アップロードサーバーの脆弱性 後
ローソン(ローソンID) 9月12〜14日 10月7日 本人に情報を表示する仕組みへの不正アクセス 後
skyticket(業務システム) 9月20日 9月28日 業務管理システムの脆弱性 後
skyticket(本体) 10月2日 10月5日 管理機能を不正に操作された 後
ソースネクスト 10月9日 10月13日 会員情報を取り出すAPIの不正利用 後
タイムズカー・焼肉きんぐ・第一興商・ヤマト運輸・ミスターマックス 発表なし 9月25日〜10月3日 調査中・委託先のパソコンの感染など 不明
Eストアーの最終報。2026年5月21日から同年8月1日までの期間において、外部の第三者がアプリケーションの脆弱性を悪用し、データベースの情報を外部へ送信していた、と書かれている
Eストアー 最終報(2026年10月16日)

Eストアーの最終報によると、漏えいの対象は約2,336万人。侵入は5月21日から8月1日まで続いていました。

デジタル庁の発表の「1. 事案の概要」。令和8年6月25日に大量のファイルへのアクセスを検知し、7月9日に、第三者がVPN機器の脆弱性を利用して侵入していたことが判明した、と書かれている
デジタル庁(2026年9月11日)

デジタル庁は6月25日に検知しました。入口はVPN機器の脆弱性で、同庁は「攻撃が確認される前に、公表されていたもの」と答えています。

もう1つ、JPCERT/CCが手口の1つに挙げた分析ツール「Metabase」の脆弱性(CVE-2026-72898)は、8月6日に公表されたもので、8月2日にはすでに悪用されていたという情報があります。JPCERT/CCがこの脆弱性の注意喚起を出したのは8月14日。GLM-5.3の公開と同じ日でした。

日付だけでは、言い切れないこと

言えるのは、「GLM-5.3が出てきたから、漏えいが増え始めた」という順番ではない、ということです。

4. 確認されている手口

JPCERT/CCは10月8日の注意喚起で、寄せられた情報から、4つの手口をまとめています。

JPCERT/CC の注意喚起のケースC。Metabase の SQL インジェクションの脆弱性(CVE-2026-72898)について、下記のIPアドレスは8月上旬から9月上旬までの間に悪用されていたもの、と書かれている
JPCERT/CC「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」(2026年10月8日公開・9日更新)

JPCERT/CCは「すべての事案で同一の攻撃手法が使用されていることを示すものではありません」とも書いています。IPAも10月9日に、「特定のプロダクトやサービスの脆弱性を狙った攻撃とは断定されておらず」、外に公開しているアプリやサービス、アカウントの侵害が起点になっているとしています。

マクニカは、AIで未知の脆弱性が見つけられて悪用されているのではないか、という心配について「現時点ではそのような状況は確認されていません」と書いています。実際に起きているのは、既知の脆弱性を幅広く探って、悪用する動きだとしています。

5. AIは使われていたのか:10月に変わったこと

10月7日のマクニカほかの分析は、「一連の事案でAIが使われたと断定できるログや痕跡は確認されていません」としていました。その後、状況が変わりました。

JPCERT/CC:攻撃者がAIを使っていたことを確認(10月15日)

JPCERT/CC Eyes の記事の冒頭。攻撃に使用された可能性のあるインフラを調べる過程で、攻撃者がAIを利用して、既知の脆弱性のスキャンやAPI経由での攻撃などを実施していたことを確認した、と書かれている
JPCERT/CC Eyes「連続不正アクセス事案の攻撃手法に関する調査」(2026年10月15日)

JPCERT/CCは、複数の組織と連携して、攻撃に使われた可能性のあるサーバーを調べ、「攻撃者がAIを利用して、既知の脆弱性のスキャンやAPI経由での攻撃などを実施していたことを確認しました」と公表しました。こうした攻撃元のサーバーは、日本以外のサービスも攻撃していたとしています。どのAIかは書いていません。

GMOサイバーセキュリティ:AIの侵入ツール「ARTEX」を確認(10月19日)

GMOサイバーセキュリティ byイエラエのブログ。日本企業を狙った侵害事案で攻撃元インフラを調べたところ、AIによる自律型ペネトレーションテストシステムの ARTEX が使われていることを確認した、と書かれている
GMOサイバーセキュリティ byイエラエ「相次ぐ不正アクセスの攻撃元の多くがAIであることを確認」(2026年10月19日)

GMOサイバーセキュリティ byイエラエは、日本企業を狙った攻撃の元になっていたサーバーで、AIが自動で侵入を試す仕組み「ARTEX」が使われていたことを確認したと発表しました。そのサーバーは日本企業約20社を狙っていて、そのうち8社は、9〜10月にすでに漏えいを公表していたとしています。会社名と、使われたAIの名前は出していません。

GLM-5.3の名前が出たのは、韓国の1件

CrowdStrike のブログ。ARTEX は主な LLM として DeepSeek v4.1-flash を使い、攻撃者は追加のセッションで GLM-5.3(Zhipu AI)と Grok 4.6 も使っていた、と書かれている
CrowdStrike(2026年10月7日)。韓国の金融機関を狙った攻撃の分析

CrowdStrikeは10月7日、韓国の金融機関を狙った攻撃(9月下旬〜10月上旬)で、攻撃者がARTEXを使っていたと報告しました。主に使われていたAIは DeepSeek で、GLM-5.3 と Grok は、追加のセッションで使われていました。攻撃者は、名前のついたグループとは結びついておらず、中国語を話し、金銭目的とみられる(確度は中程度)としています。日本についての記述はありません。

GLM-5.3が実際の攻撃で使われたという観測は、私たちが調べた範囲では、この1件だけでした。日本の政府機関、JPCERT/CC、警察、漏えいした会社の発表で、GLM-5.3が使われたとするものは見つかりませんでした。

国と専門家の見方

10月19日時点では、「攻撃の一部でAIが使われていたことは確認され始めたが、日本の事件で、どのAIが使われたかは公表されていない」が正確なところです。

6. 結論:GLM-5.3が原因、という証拠は無い

言われていること 一次情報で分かること
GLM-5.3が出てから、漏えいが増えた 公表は7月から増えていた。大きな事件の侵入も、8月14日より前から始まっていた
相次ぐ漏えいはGLM-5.3の仕業 日本の事件でGLM-5.3が使われたという公表は無い。名前が出たのは韓国の1件で、主なAIは別
AIは関係ない 10月に、攻撃者がAIを使っていたことが確認された(どのAIかは不明)
発表の直後に、世界中で急増 裏付けるデータは見つからない

特定のAIの名前に注目するより大事なのは、狙われている入口が、既知の脆弱性、API、設定の不備だということです。どのAIが使われても、入口がふさがっていれば、入れません。

7. サイトを持つ人が、今日やること

JPCERT/CC・IPA・NICTの注意喚起から、WordPressのサイトでもできることを拾いました。

注意喚起の内容 WordPressでやること
既知の脆弱性の修正を当てる 本体・プラグイン・テーマを最新に。使っていないものは削除する
管理機能やツールを、必要以上に外に出さない 管理画面・XML-RPC・使っていないAPIなどの入口を閉じる
8月以降のアクセスの記録を確かめる(NICT) サーバーのアクセスログで、見慣れないアクセスや管理画面へのログインが無いかを見る
アカウントを守る 管理者に2段階認証。パスワードの使い回しをやめる

8. ソラブンでできること

WordPress の AI プラグイン Sorabun(ソラブン) には、記事づくりの機能に加えて、こうした守りの機能が入っています。

ソラブンの「侵入の入口をふさぐ」設定。セキュリティ修正を含む更新だけを自動で当てる、管理者に二段階認証を必須にする、ほかのサイトから漏れたパスワードを使わせない、ログインの総当たりを締め出す、の項目が並んでいる
ソラブンの「侵入の入口をふさぐ」設定(手元のデモサイト)。どれも既定はオフで、チェックを入れて使う

設定のしかたはマニュアル(セキュリティ)にあります。どれもクラウド版に標準で入っていて、最初の3記事は無料で試せます。自分のサイトに古いプラグインやテーマが残っていないかは、無料のセキュリティ診断で、URLを入れるだけで確かめられます。

よくある質問

GLM-5.3が日本の漏えいに使われた証拠はありますか?

2026年10月19日時点で、日本の政府機関・JPCERT/CC・警察・漏えいした会社の発表に、GLM-5.3が使われたとするものはありません。GLM-5.3の名前が出た攻撃の観測は、韓国の金融機関を狙った1件(CrowdStrike)で、そこでも主に使われていたのは別のAIでした。

では、AIは使われていないのですか?

使われていました。JPCERT/CCは10月15日に、攻撃者がAIを使って既知の脆弱性のスキャンやAPIへの攻撃をしていたことを確認したと公表し、GMOサイバーセキュリティ byイエラエも10月19日に、AIの侵入ツール ARTEX を確認したと発表しています。ただし、どのAIかは公表されていません。

AIを使った攻撃には、特別な対策が要りますか?

狙われているのは、既知の脆弱性やAPI、使い回されたパスワードといった入口です。修正をすぐ当てる、使わない入口を閉じる、2段階認証を付ける、という基本の対策が、AIを使った攻撃にもそのまま効きます。

自分のサイトが狙われていないか、確かめるには?

まず、本体・プラグイン・テーマが最新かを確かめてください。外から見える範囲なら、無料のセキュリティ診断で、既知の脆弱性が無いかを調べられます。NICTは、2026年8月以降のアクセスの記録を確かめることもすすめています。

まとめ

出典(2026年10月19日に確認)

Anthropic・CrowdStrike・GMOサイバーセキュリティ byイエラエ・マクニカ・Check Point は、セキュリティやAIの製品を販売する会社です。テレビ高知の記事と、警察庁長官・ジャック・クラーク氏の発言は、報道によるものです。

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